医療関係者の方へ

マエルの航海日誌(Le voyage de Maelle)

第4回 ポルトガル(2006年4月5日)
掲載月:2006年12月

マエル

(マエルの父より)

ヨーロッパで熱帯のラグーンにひと泳ぎしに行くなんて、ありえない?

絶対に出来ないわけではない。南ポルトガルには40kmの長さに及ぶ"Ria Formosa"というラグーンエリアがある 。そこはあらゆる魅力に満ちている。漁村、人のいない砂だらけのビーチ、見渡す限りの砂丘。 穏やかな春の陽気の、まだ適度に風が吹く間、私たちはのんびりと過ごすことにした。 私たちは今、カナリア諸島の一番北にある島、Lanzarote(ランサローテ)島から600マイル(1000キロメートル)離れたところにいる。 アソーレス諸島の高気圧はまだこない。この先カナリア諸島へ向かうために、高気圧と好都合の風を待っている。

ここでは経済の殆どが、甲殻類(トリ貝、いろんな種類のハマグリ)、漁業、そして塩水性湿地に基づいているため、 このラグーンの入り江区域にある島々では、人々の生活リズムは潮の満ち引きに従っている。 私たちもハマグリをとりに出かけたりした。そんな時、マリアという70歳の老女に出会った。 彼女の顔は太陽や風にさらされ、皺だらけだった。彼女は引き潮のときはいつもハマグリを集めているので、 そのラグーンでのベストポイントを知っていた。1週間に7 日、雨、風、晴れの日に、彼女はカゴとショベルを持って出かける。 方法はいたって簡単。大事なことは正しい場所を選ぶことだ。

島の漁師

甲殻類の収穫はだんだん運頼みになってきている。過去20年以上に渡り、そのサイズや漁獲量は大幅に減少している。 大きなものはレストランのオーナーに売られ、小さいのは庭園のオーナーに売られる。 ここで言う庭園とは、1,000ヘクタール以上の土地で、常に潮に洗われるため土壌通気と砂の追加などの日常業務を必要とするものを意味する。 引き潮になると、一度に2~3トンの荷をボートに積んで砂売りがやって来る。

マリアは島で漁師の夫と一緒に質素に暮らしている。夫は食卓に並べる食べ物を補充するために魚の網を少し仕掛けている。 数年前、島に電気は通ったが水道はまだ通っていない。飲み水に適した水も殆どない。 島民は雨水を溜めたり、Olhao(オリヤオ:町の名前)にある公衆の水道を使っている。 町は海岸沿いあり、水道は町に市が立つ土曜の朝だけ使える。島民にとっては週に一回の集会だ。 我々も島民に出会うため、また飲み水を入手するためそこに出かけた。なんと言っても水入手のための唯一の手段だからだ。 私たちは雨水をシャワーに使っていた。その用途でデザインされたテントを使って雨水を集め、別のタンクに溜めたのだ。 水を使うときはその使用量に非常に気を使った。洗濯をするときを除いて一日に使う水の量は、一人当たり10リットルまでと制限していた。

マエル

学校、スポーツ、散歩、読書、ラグーンの探検、地元民との交流、そして水の魅力に耐えられなくなったマエルと一緒に泳ぎに行く傍らに、私たちは南への航海準備を始めていた。技術的な準備は、エンジンの手入れ、用具及び帆の点検だ。海へ出ればアフターサービスはないし、緊急の故障サービスもない。私たちは救命道具には特に用心深かった。例えば救命ブイや安全ベルト、応急手当キット、避難火炎信号、救命バケツの状態をチェックした。その名前が示す通り救命バケツには、もし船が深刻な損傷を受けて船を見捨てる状況になった場合でも、救命いかだで生き残るために必要なもの全てを入れてある。

そのようなリスクは全くゼロではない。だから、私たちは非常用対策を進んで行った。 バケツには、インスリンとグルカゴン以外の糖尿病患者が必要とするもの全てが入っている。 インスリンとグルカゴンは冷蔵庫の中の、防水加工をした箱に入れてある。 バケツには食べ物:オートミール、シリアルバー、蜂蜜、すりつぶした栗、いろいろな種類のドライフルーツ、などが入っている。 食べ物はどんなに寒くなっても又は暑くなっても長期間保存が利き、少しの量でかなりのエネルギー量を与えてくれるものだ。 他にも色々なものがある。例えば、温かい衣類、サバイバルブランケット、ナイフ、釣り道具、コンパス、 GPS(global positioning system/全地球測位システム)、海図、身分証明書、クレジットカード、少しの現金、海水を淡水にする小型機器等。

また、船には避難標識がある。全員使い方を知っている。 船で重要なことは、全員がどこに緊急用具が保管され、どのように使うかを知っていることだ。 急いで船から避難しなければならない緊急事態には、全員が何をするべきか知っていなければならない。 マエルもまた、そのような状況下で自分が何をするべきか正確に知っている。

航海には多大な準備が必要となる。世界中を飛び回る糖尿病患者であれば尚更だ。 海での孤独は、物忘れ、ミス、又は怠慢につながるため、私たちはどんな機会も逃さず準備に費やす。 海に出れば消防士も救急医療サービスも病院もない。その状況に直面し、速やかに正しい判断をしなければならない。 私たち夫婦は筋肉注射や静脈注射の仕方、潅流液の送り方、縫合の仕方、応急処置の仕方を知っている。 また、関連医療機器や消耗品も船に置いてある。この私たちの船内薬局は、糖尿病専門医と緊急医療の専門家(二人とも船乗り)の助けによって出来たものだ。

糖尿病を持つマエルを乗せていることが、船に衛星電話(ロシュ・ダイアグノスティックス社提供)といった安全のための補助装置を置くきっかけとなった。 これがあれば私たちはフランス、トゥールーズにあるPurpan(パルパン)病院の海上緊急医療サービスに直接連絡を取ることができる。 必要なときはアドバイスをもらうことができる。海にいる間、何の準備もなく軽率な行動を取ってしまうような時にも緊急医療が可能になる。 親の責任において、私たち自身がこれを必要としていると言える。 踏み固めた道から外れないでいることは不可能だ。 たとえ時間がたくさんあったとしても慎重に計画しなければならない。予期しない環境にも順応し、慎重にならなければいけないのだ。

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