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マエルの航海日誌(Le voyage de Maelle)

第8回 ランサローテ島(2006年8月2日)
掲載月:2007年4月

マエル in ランサローテ

(マエルより)

朝、まだ眠っている間にランサローテ(スペイン・カナリア諸島地方。スペイン・ワインの品質管理法で原産地呼称を認められているワインの名産地)に到着したみたい。目が覚めるとすぐに、キャビンの窓から外を眺めてみる。この火山島にはどんな眺めが広がっているんだろう。まず目についたのは、大きなオレンジ色の救助船。アフリカから丸木舟(cayucos)でこの島にやって来る違法移民たちを助けるのに使われるんだって。

ママが言ってたけど、カナリア諸島に来る違法移民たちの数は今週だけでも1,500人以上だって言うから、すごい人数だ。あとは、やしの木や月桂樹が何本かずつかたまって生えているのも2、3ヶ所に見える。町の向こうに火山の姿もあった。木が1本も生えていなくて、裸の山といった感じ。火山を見たのは初めて。それまで、火山に行ったという思い出がなくて、2歳のとき太平洋にあるバヌアツ島で見たはずなのだけれど、覚えがないの。

アレシフェは、島で一番大きな町。町の真ん中に小さなラグーン(charco)がある。この町では何から何まで溶岩でできているみたい。低く建物を囲む外壁、敷石、ベンチ、遊歩道、それから、古い建物の中にも溶岩で出来ているのがあった。だから、町全体が赤茶色。真っ白な家々がますます目立って見える。

(マエルの母より)

この島を歩いていると、あちこちに死火山が見える。この島の景色は100%火山そのものと言っていい。黒、赤、灰色と様々な色合いのクレーターや、溶岩がかたまってでこぼこになった地面も目に付く。この火山島に注ぐ太陽の光は絶え間なく変化し、そんな光の中、景色もまた次々と違った姿を見せる。最後の噴火が始まったのが、1730年。6年間続いたそうだ。10メートルもの幅の溶岩流が、10の村、そして、実り豊かな農地を飲み込み、結局、この島の4分の1を埋め尽くした。今では、島のあちこちに点在している村に残っているのは、ほんの数本のやし、ユーカリ、タマリスクの木だけ。ランサローテ政府は、島民に出来るだけ木を植えるよう勧めているのだが、これほど乾いた土地では、なかなか難しい注文である。(雨もほとんど降らないし、降ったにしても、風が全てを乾かしてしまう。)

ランサローテ カナリア諸島

時々、地面の表面を大きく覆ったところがあり、一体なにかと思っていたら、トマトやすいかを育てているのだという。黒い覆いは、火山スラグ(rofe)と呼ばれ、地下20~30mの深さにまでおよび、地面の湿気が逃げないようにしているらしい。この覆いのおかげで、年に1度か2度しか雨の降らないこの地で、農作物を育てることができるのだそうだ。私たちが、やしの大木(このあたりではこの1本だけ)の下でピクニックをしていると、ホセというぶどう農家の人が通りかかり、色々教えてくれた。

せっかくの機会なので、どうして、ぶどうの木を1本1本溶岩で作った壁で覆っているのかも聞いてみた。ぶどうの木の周りの平均気温をあげること、北アフリカから吹いてくる乾いた風から、つるを守るためだそうだ。でも、この風とともに運ばれてくる砂の中には、溶岩で覆われたこの島で植物が生きていくのに必要な成分も含まれているのだと言う。(カナリア諸島だけに生息しているという植物は2,000以上もあり、そのうち、ランサローテだけでしか見られないものもある。)

20年前にここを訪れた時とずいぶんこの島が変わった、と夫が印象をもらすと、ホセは、観光客目当てにずいぶん開発が進んだのだと教えてくれた。仕事が増えたのは島民にとって喜ばしいことだが、この島独特の雰囲気がなくなっていくのは寂しいと、ホセは言う。そして、家路に着く前に、私たちに溶岩流の場所を教えてくれた。火山の方向に少し入ったところにひとつあって、そこでは、かんらん石という美しい緑色をした半貴石も見られるという。是非、行ってみようということになった。容赦なく降り注ぐ太陽、空気に満ちる硫黄の刺激臭、しかも、溶岩に覆われた地面の上にいるのだから、ますます暑く感じる。探し始めるとすぐに、緑色の原石は見つかった。自分たちへのおみやげに、小さいのをひとつもらっていくことにする。“火山弾”と呼ばれる目の粗い溶岩も見つかったが、船に持ち帰るには重すぎた。これ以上船荷を増やすこともないだろうから。

ランサローテ カナリア諸島

20世紀初めに生まれたランサローテの芸術家シーザー・マンリークは、前衛的なエコロジストでもあり、生まれ故郷の自然を守るため、自然保護区への指定を訴えて、精力的に活動をした。このマンリークが、5つの溶岩をうまく利用して建てた、独創的で、環境に優しい家が今も残っている。素晴らしい建物だ。まさに迷路である。中でかくれんぼも可能だろう。人が棲めるよう溶岩の内部の形を整え、玄武岩を削って作った回廊で、5つの溶岩をつないでいるのだ。家の中は、溶岩のもつ断熱作用のおかげで、外がどんなに暑くても、びっくりするほど涼しかった。

ランサローテで、火山が形づくった、その独特の風景と同じくらい印象的だったものがある。風景とは全然違うもの-それは、夥しい数の太りすぎの子供、ティーンエージャー、そして、肥満体の大人たちだ。食べ物のせいだろうか、それとも、運動しないからだろうか。超体重の人たち向けに、低脂肪、砂糖不使用のケーキやペストリーを売っているベーカリーは、数軒しかなかったし、スーパーマーケットでも、人々がソーダや、脂質や砂糖がたっぷりの食べ物を大量に買い込むのを見かけた。野菜や果物は、種類がかなり少ない。しかも、値段も高く、新鮮さにも首をかしげるようなものだった。ゴフィオと呼ばれる穀物をローストして挽いたもの、イモ類(ここでは、パパスと言う)がカナリア諸島の主食らしい。一方、低糖、コレステロールフリー、無塩商品は、様々に揃っていた。スペイン厚生省のデータによると、18歳から64歳までのスペイン人の18%が、コレステロール値異常、20%が高血圧、5~10%が糖尿病である。ここランサローテでも、スペイン本土と同じようにキャンディ屋があるが、しぼりたてのフルーツジュースを砂糖なしで飲めるジュースバーもあった。私は薬局を回って、糖尿病用の商品を探したが、ほとんどどこにも置いていなかった。大抵は、取り寄せになるようで、物によっては、届くのに10日かかると言う。必要なものは、持ってくる方がよさそうだ。ランサローテの病院には、糖尿病相談室があり、救急サービスもある。ここは暑いので、インスリンを持ち歩くとき、適温が保てるようクーラーバッグに入れた。マエルが糖尿病患者だということで、この島で特に不便を感じることはなかった。船旅の間、高温高湿の状況に置かれたときも、マエルの血糖測定器は、きちんと正しい測定をしてくれた。

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