医療関係者の方へ

マエルの航海日誌(Le voyage de Maelle)

第13回 フンジュン(2007年1月)
掲載月:2007年9月

川沿いののどかな小村を去る前に、日曜のミサに参加してみた。太鼓やバラフォン(西アフリカに古くから伝わる代表的な打楽器で木琴の一種)のリズムに合わせ、セレール語で歌われる祈りの歌を聴くためだ。ミサの後、すっかり仲良くなったこの村の人たちに最後のお別れを言うことも出来た。

マエル in フンジュン

ここからさらに30マイルほど内陸に位置するフンジュンという町に向かう。この町には、週に一度、周辺の村々で細々と農業を営む人々が作物を持って集まり、マーケットが立つのだ。私たちはこのマーケットで生鮮野菜を仕入れるつもりだった。農民たちは、それぞれの村からピログ(小船)で何時間もかけてやって来る。マーケットには、人々-徒歩の人もいれば、ロバの引く荷車に乗った人もいる-があふれ、あちこちで気のいいおしゃべりに興じていた。

“商品”はござや、鮮やかな色の毛布の上に広げられている。種類は様々で選ぶのに迷うほどだが、量はとても少ない。同じ種類の野菜を1,2キロかき集めるのに、何軒もの露店を回らなければならなかった。現地の人達には一度にまとまった量を買う余裕がないため、野菜はひとつひとつ売られているのである。さらに、買ったものを傷まないようにしまっておくにも、手段が限られるのだ。冷蔵庫を持っている人などほとんどいない。最も一般的な食物の貯蔵方法は、乾燥させるか、燻製にするか。全般的に果物や野菜が少ない。この地区では水不足が深刻で、市場向けの野菜栽培、穀物生産がかなり制限されていると言う。が、一方で、ここでは全ての作物が折り紙つきのオーガニックである。農民たちには、化学肥料や殺虫剤を購入するお金などないのだから。

地元の病院に立ち寄ると、ルイーズという検査室のアシスタントと話すことができた。ここにも糖尿病患者がいるのかという質問へのルイーズの返事はイエス。子供の患者もいるそうだ。10歳になるエルハッサという男の子とその母親を、午後にでも早速訪ねてみてはどうか、と言う。マラリアの治療中に糖尿病があることがわかった患者だそうだ。エルハッサははにかみ屋で、フランス語も話せなかった。ルイーズの通訳で事情を説明する。母親は3人の子供を抱えるシングルマザー。それでも、糖尿病であるわが子のためにできるだけのことをやってあげていた。つけで治療にかかせないインスリンと注射器、血糖値が極端に下がったときに必要な砂糖を買っているのだと言う。月に一度の血糖値測定にかかる費用2.3ユーロ(約365円)でさえ、彼女には支払いが難しい。節約のため、尿テストの試験紙も4つに切って使っているのだった。母親は私たちに、次から次に糖尿病に関しての質問をぶつけてくる。治らない病気なのか?エルハッサに割礼を施しても大丈夫だろうかなど。

フンジュンの人々

ルイーズに確認して、ロシュ・ダイアグノスティックス社提供の血糖測定器を使っての血糖測定を持ちかけてみた。勿論無料で。母親はお願いしますということだったので測ってみると、結果は40mg/dl。糖分の摂取が必要な値だが、彼らに持ち合わせはなかった。マエルが砂糖とビスケットを少し分けてあげる。

しかし、エルハッサにも母親にもなぜそれが必要かは理解できなかった。血糖値が下がってしまったとき、何かでんぷん質のもの、例えばパンやお米、現地の食習慣に従うとするとアワ、を口にしなければならないことがわかっていないのである。高血糖、低血糖の兆候もきちんと理解しているわけではなかった。そこで、ルイーズの通訳を通し、マエルがAJD(若年糖尿病協会)の教育ツールを使って二人にわかるように説明をした。この家の厳しい経済状況を考え、ケトン体用の尿試験紙、血糖自己測定器と試験紙を贈ることに決め、母親とルイーズに使い方を教えた。また、ルイーズの病院の検査室と話をし、エルハッサが定期的に病院を訪れ、そこで私たちが贈った測定器で血糖値を測定できることになった。こうすれば、母親も測定器に慣れることが出来るだろうし、費用もかからない。

ルイーズはもう一人、マリックという8歳の少年のことも教えてくれた。糖尿病発症から2年、その間何度も高血糖性昏睡で病院に運ばれてきたのだと言う。かなり深刻な状況のようで、このマリックの元も訪ねるよう約束させられた。彼はここフンジュンからピログ(小船)で3時間かかる村に住んでいるそうだ。翌日、支流のひとつを上流に向かって出発したのだが、私たちの船の喫水(船が水上にあるときの船体の最下端から水面までの垂直距離)がたった1.3メートルであるにもかかわらず、底について進めなくなってしまった。結局そこに船を止め、1時間半ディンギーをこぎ村を目指したのだが、途中で漁師に出会うたびに方角を確認せずにはいられなかった。私たちの訪問に村人たちはかなり驚いた様子だったが、みんなマリックのことを知っていて、私たちを家まで案内してくれた。

フンジュンの生活

ウォルフ語で、セレール語ができないことを説明すると、一人の女の子が通訳をしてくれると言う。マリックは9人兄弟。私たちが自分に会いに来たのだと知るとびっくりしていた。ルイーズにここに来るよう言われたこと、マエルも糖尿病を患っていることを説明する。糖尿病について長い時間話をし、沢山の質問に答えた。高血糖性昏睡には色んな兆候が見られることを話し、特に重要な最初の兆候について詳しく説明した。母親が私たちに見せてくれたノートには、マリックの朝晩の尿検査の結果が書き留められていたのだが、ほとんど毎回糖が出ており、アセトンの検出される確率もかなり高い。血液検査をしてみると、血糖は通常値を示していた。話の中では栄養についても触れておいたのだが、彼らにはリポイド、グリコシドやタンパク質などと言っても、何のことかわからない。とにかく簡単に、しかし明確にわかるように話さなければならず、食べ物についてはわかりやすい名称を使った。現地の食生活に馴染みがあったことが、思いがけず、ここで多いに役に立った。

このふたつの事例で、幼い患者を抱える家族にとっての一番の問題は、彼らがほんんど日常的に高血糖であることと、疲労を感じていることである。ここでできる治療は、適切な治療からは程遠い。インスリン投与量の調節が出来ないのである。1日に3回速効型インスリンを打つだけで、持続型や中間型といった選択肢はない。

私たちは、マリックと母親に血糖自己測定器の使い方を教え、試験紙と一緒にプレゼントした。マリックはすぐに血糖測定のしくみを理解したようだったし、家族全員がこの測定器のおかげでどんなに助かるか、わかったようだった。血糖値について、どこまでが許容範囲か、どこからがそうでないか図を描いて示し、全て説明し終えると、みんなでお茶を飲んだ。帰り際、マリックの母親からビサップ(ハイビスカスの花びらを乾燥させたもの)を一袋いただいた。このビサップを数時間お湯に浸し、砂糖とバニラエッセンスを加えると、現地で大変ポピュラーなばら色のハイビスカスティが出来上がる。

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