医療関係者の方へ

マエルの航海日誌(Le voyage de Maelle)

第17回 ハジェール(2007年6月)
掲載月:2008年1月

ハンジェールの村

(マエルより)

7ヶ月もの日照りのあと、ようやく雨が降り出した。雨期が始まった。村の人たちはこれを合図に様々な仕事にとりかかる。大雨になる前のこの時期、やらなくてはならないことが沢山あるから。女の人たちは雨期の間に使うまきを蓄えたり、畑の準備をする。男の人たちは田んぼを耕す。ここでは“カディエンドゥ”と呼ばれる昔ながらのすきが使われている。一見、木製のショベルのような形をしているけど、よく見ると長い持ち手の先に幅の狭い金属製の刃がついている。

新しい小屋を作るのに忙しい人もいる。まず“バンコ”(粘土と砂を混ぜたもの)で壁を作って、これが完全に乾くのを待つ。次は天井。マングローブの枝を使って、隙間を埋めるために上から粘土を塗る。最後に屋根。パルミラヤシで枠を作ってから、その上にトタン板をかぶせるか、麦わらで覆う。どちらにするかはその家の家計次第。

ハンジェールの女性

新しく小屋を作る必要がない人も、のんびりしてはいられない。大雨に備えて屋根の修繕をしたり、壁の補強をしなくちゃならない。大人たちの作業に必要な粘土を取りに、村はずれまで行くのは子供たち。特に女の子たちの仕事。粘土をやしの葉で編んだバスケットに入れ、頭に乗せて大人たちのところまで届ける。 “バウヌーク”と呼ばれるヤシ酒の収穫もこの時期に行われる。やしの木の枝の付け根にくくりつけてあるミネラルウォーターの空き瓶―先端には、植物の繊維を編んで作った漏斗(じょうご)がさしてある―にたまった樹液を集めて回る。

雨季はマンゴーの季節でもある。ここには数え切れないほどのマンゴーの種類があって、形、色、大きさ、味も様々。1.5キログラム位まで成長するものもある。そんなに大きなマンゴーを見たのは生まれて初めて。もちろんパパイヤもある。それから“マッド”という果物も。これはつる状の植物で、味はにんじんに似てるけど、ちょっと酸っぱいのが特徴。ゆで卵を半分に切るときみたいにてっぺんからナイフを入れて、好みに合わせて砂糖やオールスパイス、こしょうをかけて食べる。私はほんの少しこしょうを振って食べるのが好き。マッドはジュースにして飲むこともできるし、火を通すとちょうど煮込んだプルーンのような味になる。

サポジラ

パパイヤやマンゴーは完熟する前に皮をむいて、さいころ状に切ってサラダにして食べることもできる。こうするとまるで野菜みたい。他に、珍しい果物のひとつに“サポジラ”がある。小さな茶色の実で、味はアーモンド梨に似ていてまずくはないけど、甘すぎてあまり好きじゃない。

今までに食べたことのない果物には、どの位のブドウ糖が含まれているのか見当もつかないから、まず少し食べてみて血糖値の変化を調べることにしているの。面倒に聞こえるかも知れなけど、新しい血糖測定器を使えばとても簡単。すぐに準備が出来るし、すぐに測定結果も出るから本当に使いやすい。理想の血糖値の範囲を入力しておけば、お医者さんが設定した範囲内に値がきちんと納まっているか確認することが出来る。その上、過去7日、14日、30日の血糖値の平均もすぐに出せる。私たちのように糖尿病のお医者さんがいる医療機関から遠く離れた場所にいると、信頼できる血糖測定器を持っていることは何より重要。

とても暑いから、のどを潤す飲み物は絶対に欠かせない。私たちは村の人たちと同じ方法で自家製のジュースを作っている。砂糖を加えないのが鉄則だけどね。ハイビスカスの花で、深い赤色のおいしい飲み物を作ることが出来る。まず、花を冷たい水に浸して成分が溶け出るのを待つ。これを濾(こ)して、しょうが汁で味をつけて出来上がり。ビタミン、ミネラル、抗酸化成分たっぷりのハイビスカスティよ、ってママが言ってる。ここではとにかく汗をよくかくから、こんな飲み物こそ水分補給にぴったり。しょうが汁を冷たい水で割り、ほんの少しレモンジュースを加えたものも、のどが渇いたときに丁度いい。村に生えている植物で作ったハーブティもよく飲む。たとえば“キンケリバ”。村の人たちが朝食に飲むこの茶には、淹れてすぐに飲むと沈静効果があり、逆に、長くお湯に浸して濃くなったものには強壮効果がある。ママは薬草に興味を持って、色々試してはびっくりするくらいおいしいハーブティを作ってくれる。今まで知らなかった味に出会うのはすごく楽しい。

ハンジェールの畑

私たちは、野菜や果物を全てマーケットか村で買っていた。ほとんどが有機農法で作物を作っている村で生産されたものだ。ハジェールもそんな村のひとつ。 700人が住むこの村では、フランス人の指導でマングローブの森の真ん中に畑を切り開いた。井戸も自分たちで掘り当てたものだ。村の女の人たちはその広大な畑の中に、それぞれ少しずつ自分たちで好きなもの―カッサバやさつまいも、様々な青野菜など―を育てられる一画を貰っていた。そのおかげで、これまでなかなか村人の食卓には上らなかった野菜が食べられるようになり、また余った分は売って家計の足しにすることもできるようになった。

村の学校にも畑があり、180人の生徒ひとりひとりが一区画ずつを割り当てられ、その世話を任されていた。種まきから収穫、もちろん毎日の水やりも学校が始まる前に済ませなくてはならない。こうして学校で畑の世話をすることで、生徒たちは農業のしくみを学ぶことが出来る。また、上級生が下級生に色んなことを教えなければならないので、将来の仕事に向け“徒弟制度”のいい実習にもなる。その上、学校の食堂で自分たちが作った新鮮な野菜が食べられるから、いいこと尽くめだ。村の診療所の担当である衛生員のフィロメーネによると、このふたつの畑が出来てから子どもたちの健康状態が改善されたらしい。エネルギッシュな学校長のママドゥも、病欠がびっくりするほど減った、と話してくれた。

フィロメーネや学校の先生たちの行動力に刺激されたみたい。4年生と5年生に糖尿病について話をしたいと申し出てみた。すぐにOKが出て、次に村に行く時に実施することになった。早速プリントの準備にかからなければ。内容も、ここの生活に合わせたものに修正しないと。

[ピックアップコンテンツ]