医療関係者の方へ

マエルの航海日誌(Le voyage de Maelle)

第18回 糖尿病対策プロジェクト(2007年7月)
掲載月:2008年2月

(マエルの母より)

船底に様々な生物が付着してしまい、しかも水温が高いせいでどんどん成長を続けていたので、思い切って船のクリーニングをすることにしました。特に目に付くのはカラフルな藻や、何層にも育ったフジツボ、貝などです。ものすごい量が船底に貼り付いているせいで、船のスピードが出にくくなっていたのです。事態は深刻で、早急に手を打たなければなりません。そうは言ってもここにはボートヤードなどなく、全て自分たちの手で行うしかないのです。問題はいつ、どこで、この作業にとりかかるか。お天気のいいときでなければできないし、砂がかなりしっかりしていて、ビーチまでの傾斜があまり険しくなく、満ち潮と引き潮の水位の差がかなり大きくなるところでなければ出来ません。川岸にボートをつなぐしっかりした木も必要です。これら全ての条件を満たす場所を探すのは、かなり大変です。でも、あとで悔やむよりここはじっくり時間をかけて最適な場を見つけるほうがいいので、色んな所を歩き回り、自分たちの目で確かめてやっと Kacouaneの支流に決めました。

マエル

場所が決まると、あとはどうやって作業をするかです。まず、潮が引き始める時間を見計らって、キールから川底までの距離をソナーで確認しながら、船をぎりぎりまで川岸に寄せます。船が川底についたところで、90度向きを変え、船体が川岸に並行になるようにします。そこから、私たちはとも綱を口にくわえて岸まで泳ぎます。マエルは船が流されないよう支えていなければなりませんでした。この間ずっと、“船長”である夫は私をせかし続けるのですが、そう簡単なことではありません。やっとのことで、一番手前にある根のしっかりしている木にとも綱を結びつけました。

ダイビングスーツに着替えて川に入り、肩まで水に浸かって船体の掃除を始めます。引き潮の間に、付着しているものをきれいにこすり落として乾かし、コーティングの塗料を塗ってしまわなくてはなりません。急がなくては、潮が満ち始めてしまいます。しかも、炎天下、ものすごい暑さの中での作業です。マエルがしょっちゅう冷たい水を運んで来てくれたので助かりました。環境を汚してしまわないよう、作業で出たごみを集めて燃やし、やっと作業終了です。潮が満ちて、船がまた水上に浮かびました。とも綱を外し、いつもの停泊場所に戻ります。掃除と50㎡もの船体の塗装でもうくたくたです。今晩はぐっすり眠れそうです。

早いものでセネガルに来てからもう9ヶ月、ここカサマンス地方で過ごすのも8ヶ月になります。当初、こんなに長居するつもりはなかったのですが、この国の素晴らしい自然、温かい人々に魅せられ、すっかり腰を落ち着けてしまいました。それでも、ここの人々に話したいことはまだ尽きません。この9ヶ月の間、沢山の糖尿病を持つ人々に出会い、彼らが毎日の生活の中でどんな困難に直面しているか、この目で見てきました。また、病院での治療を必要とする糖尿病患者が飛躍的に増えていることも知りました。ダカールに本部を置くセネガル糖尿病支援協会には、2001年以降毎年2000人もの人々が、新たな糖尿病患者として登録されています。それ以前の年間200名弱から、急激な増加です。国の保険機関でもこれが深刻な問題であることは認識しており、2007年から 2011年にかけて国をあげての糖尿病対策に取り掛かろうとしていました。この対策についてもっと詳しいことを知り、この国の糖尿病の現状を把握したいと思い、カサマンス地方の保険局長に面会を申し入れ、お会いすることが出来ました。

糖尿病相談室

大変興味深いお話を伺い、さらに、糖尿病患者の医療相談を任せられているドクターと看護師に会ってはどうかとおしゃっていただきました。この提案はすぐに実現されることになり、早速、局長の事務所のある病院の同じ敷地内にある糖尿病相談室に向かいました。多くの人が順番を待ってましたが、担当ドクターと看護婦のビュートリスは、私たちのために時間を作ってくれました。彼らの最優先課題は、糖尿病予防、情報の発信、定期健診や診断、トレーニングといったサービスの提供を中心に、相談室の活動を発展させること、およびこれらの活動に必要な物資を確保することです。第2の優先事項は、新たな糖尿病協会の設立。これは絶対に必要であると言っていました。

私たちは、すぐにフランスのロシュ・ダイアグノスティックス社に連絡を取りました。状況を話すとアキュチェックの血糖測定器、尿・血液検査のための試験紙、ランセットの提供を申し出てくれました。ちょうど休暇でフランスに帰っている友人がいたので、こちらに戻るときに持ってきてくれるよう頼みました。私たちのこの迅速な行動が口火を切ったかのように、糖尿病対策プロジェクトは実現に向け本格的に始動し始めました。まずはミーティングの開催。ビュートリスとドクターは、地元のラジオ局や婦人会などに連絡を取り、情報を流してもらえるよう頼みました。私たちも、必要な許可を取るための書類などの準備で忙しくなりました。なにしろ、この国の行政の裏表を知りつくしているわけではないので、なかなか容易ではありません。

糖尿病協会の設立、および相談室の活動についての草案作りには、ビュートリスと私たちで取り組みました。そして、やっと作り上げた草案をミーティング当日、集まってくれた60名に提示。忙しいスケジュールの合間をぬって出席してくれた院長は、このようなダイナミックな組織を設立し、活動を開始することでどのようなメリットを得ることができるか、はっきりと指摘してくれました。ここジガンショールが、糖尿病患者のための施設が集中するダカールから離れていることを考えると、メリットは尚更大きいでしょう。興味深い提案が上がり、協会で働いてくれるボランティアを探すのもさして難しくはないだろうという認識も確認されました。ミーティングが終ると、次は具体案の作成や、長期的に協力してくれる人々の確保。目の回るような忙しさです。

ビュートリスは週に2回、糖尿病の人々のために食事規定や合併症などについて、簡単な説明会を開いていました。資料は壁に自分で描いたイラストだけです。糖尿病があると食べてはいけないものが数多くあるのですが、現在入手できる情報はアフリカの食生活を照準としたものではありません。たとえば、その情報によれば、食べられる果物はりんごだけということになってしまうのですが、アフリカでりんごは取れません。全て輸入品となり、大変高価になります。アフリカでは色んな果物が豊富に取れるのに、どうしてわざわざりんごを食べなければならないのでしょう?

ビュートリスの説明会で、フランスでの食事規定について話す機会を持ちました。参加者は25名。私はディオラ語がうまく話せないので、必要なときは同席した保健員が通訳をしてくれました。次々と上がる質問にも、どうにか答えることができましたが、ここでの食習慣、地元で取れる食べ物、よく食卓に上るセネガル料理、そして油分の摂取量がかなり多いということを知っていたのが役に立ちました。またその他にも、地元の人たちの思い込みも考慮する必要がありました。たとえば彼らは、穀物の1種であるフォニオは薬効成分を含んでいて、ちょうど砂糖の代わりに使う人口甘味料のように、糖尿病を抑える効果があると考えていたのです。

患者たちがみな熱心に情報を入手しようする姿に動かされ、私たちはビュートリス、ドクターと協力して、この土地の生活に合わせた情報をまとめた資料を作ろうと決心しました。糖尿病は発病後すぐに合併症が出ることが多いし、ここで毎日行われている医療相談の中でかならず触れることなので、資料は絶対に必要です。また、糖尿病患者の中には、病気の治療を祈祷師に任せてしまう人々もいて、これもどうにかしなければなりませんでした。祈祷師の言葉を信じて、悲しい結果を招いてしまう例も少なくはないのです。

糖尿病対策プロジェクトが遂に軌道に乗り始め、ますます張り切っているビュートリスは、私が持っている情報を全て知りたいと言いだしました。AJD(若年糖尿病協会)が出した資料を見ながら知っていることを教えることにしましたが、内容はアフリカの現状からは全くかけ離れたものでした。たとえば、登録患者 1200名のうち、自分で血糖測定器を所持しているのがたった7名というこの地方の現実の中で、患者に血糖値のモニタリングを期待することができるでしょうか?

言うまでもありませんが、登録患者の中には子供や若者も含まれています。こうした若年患者のためにもミーティングの開催を予定しました。その中で、マエルが自分と同じ年頃の糖尿病の子供たちに話をするという計画もありました。マエルがどういう子か、どんなスポーツを楽しんでいるか、どんなに前向きに生きているかを目の当たりにして、ここの人々は一様に驚いましたし、実際、マエルが自分で血糖測定をやっているのを見るまでは、彼女が糖尿病であることを信じない人はたくさんいました。

私たちがセネガルの滞在を延ばしたのは、この活動にすっかり夢中になったから、そして、マエルも私たち夫婦も、せっかく芽生えたこの土地の人たちとの友情を深めたい、ディオラ文化に浸りたい、と欲したからです。私たちが努力してここでやり遂げたことは、これから先やらなければならないことのほんの一部分でしかないでしょう。それでも、私たちはここの人たちのために、出来ることをやりたいと思っています。自分たちの旅行を、たまたま出合った人や物とのうわべだけの交流を楽しむという、そんな作り事にはしません。それが私たちのモットーなのです。

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