医療関係者の方へ

マエルの航海日誌(Le voyage de Maelle)

第22回 世界糖尿病デー(2007年12月)
掲載月:2008年8月

マエルとピーナッツの収穫

(マエルの母より)

何日も続けてハルマッタンが吹き荒れ、あたり一面を砂埃に包んだ。季節が変わる前触れだ。 2週間もしないうちに夏は去り、冬が訪れた。気温は15度も下がり、夜になると肌寒さを感じる。我が家でも、毛布や暖かい洋服を出し始めた。ニット帽と裏地付きコートで、すっかり冬の装いをした地元の人たちの姿も時々見かけるようになった。でも、支流の水温はまだ24度に達するときもある。川遊びには適温で、夏の盛りの頃よりかえって気持ちがいい。

村の風景も、季節とともに変わりつつある。水田には稲穂が垂れ、黄金色に輝いている。葉の落ちたバオバブの木は実をつけ始め、アカシアの葉は、また緑に変わっていく。ピーナッツの収穫は今がピークだ。私たちも、ママドゥとファトゥを手伝いに行った。まず手で地中からピーナッツの実を掘り出し、そのまま畑で干す。数日後、集めてラックの上に広げる。こうすると風通しがよくカビないで完全に乾く。最後に皮むき。これは、もっとも手間のかかる作業だが、実は村人たちの楽しみのひとつでもある。小屋の前に家族が集り、和気あいあいと作業する。外に持ち出したコンロでお茶を沸かして、おしゃべりに興じながら、手を動かすのだ。なにしろ、セネガル人は本当によくピーナッツを食べる。肉か魚をピーナッツソースで煮込んだマフェという郷土料理は、文句なしにおいしいのだが、使用するピーナッツの量は半端ではない。しかも、ペースト状にしたピーナッツを、たっぷりの油で薄めてソースを作るので、脂肪分はものすごく高いはずだ。だから、うちでマフェを作るときは、油の代わりに水を使って低脂肪にするよう心がけている。全般的にセネガル料理は、油をたくさん使うものが多い。大抵、一番安いパーム油が使われる。ここの料理は到底糖尿病の人には薦められるものではないが、ちょっと工夫すれば、糖尿病の人でも食べられるようにすることができる。

寒くなって、色んな病気も流行りだした。近所の人も、くしゃみや咳をしているか、今流行のインフルエンザで寝込んでいる。私たちも高熱と身体の痛みで寝込んでしまった。インフルエンザならそれほど心配することもないのだが、マラリアでも同じ症状が出る。ダカールから取り寄せておいたマラリアの検査キットを使った。マラリアの原因となる4種類の原虫を20分で検出することができる。使い方は簡単で、自分たちで検査を行うことが出来た。結果は全員マイナス。インフルエンザだった。

世界糖尿病デー

私たちが何日も船から出てこないので、ママドゥが心配して様子を見にきてくれた。すると翌日、今度は地元の人たちがインフルエンザのときに飲む薬草と、庭で取れたオレンジとレモンを持って来てくれた。マエルは食欲がなく血糖値も高かったので、インスリンの量を変えなければならなかった。幸いなことにアセトン(注1)は出ていなかった。

世界糖尿病デーを機に再開する予定の“糖尿病発見キャンペーン”が、いよいよ3日後に迫っていた。当日イベントを計画しており、ここ2,3ヶ月、その準備にかなりの労力を費やしてきた。イベントを取り仕切るのは、糖尿病センターの看護師ビュートリスと糖尿病協会の秘書アントワーヌにお願いした。組織の壁に阻まれ、開催は無理かと思うこともあったが、この二人のお陰でなんとか準備が整った。

椅子が足りなさそうなので頼んでおいたら、イベント開始と同時にろばに引かれてゆっくりと会場に到着した。でも、気に留める人はいない。何しろここでは全てが“セネガル時間”、予定時間プラス1時間でちょうどよいのだから。ジガンショールで開催したこのイベントは、大成功に終わった。参加者は合計200名。主な顔ぶれは糖尿病患者、病院や村の診療所のナース、それから看護実習生など。他にも、ジガンショール地区の保険教育委員長、医師会の代表、新聞記者、地元のラジオ局も姿を見せた。

参加者たち

参加者たちは、医師の発表に熱心に耳を傾け、活発な質疑応答が続いた。糖尿病センターのビュートリス、保健教育委員長、そして私の3人で、糖尿病センターに検診室を設けることの重要性について説明も行った。マエルへの注目も高く、たくさんの参加者が彼女の糖尿病患者としての日々の体験談を、興味深そうに聞いてくれた。糖尿病協会から“糖尿病患者による野菜栽培プロジェクト”の発表があった。これは医師会が既に承認、支援をしており、現在、スポンサーや技術サポートを行ってくれるビジネスパートナーを探している。

その主な目的は:
  • -糖尿病患者に農作業を任せることで、身体を動かす機会を与える
  • -果物・野菜を安価で提供することにより、糖尿病患者およびその家族の食生活を改善する
  • -貧困層が保健医療へアクセスできるように、農産物の売上金で、糖尿病協会、協力団体、非営利保険会社の活動を支援する
の3つである。

8ヶ月にわたる努力が実を結んだ。糖尿病協会、糖尿病センターは、現在フル稼動している。プロジェクトの実現に多大な協力をいただいたフランスのロシュ社には、この場を借りて、再度お礼を述べたいと思う。それから、この長期プロジェクトを成功に導いてくれた地元の医療関係者の方々にも。

このプロジェクトをきっかけに、大手研究所の現地事務所とカナダのモンモランシー(Montmorency)大が、整形外科医・理学療法士のチームと長期提携契約を結び、合併症で足を切断した糖尿病患者に義足の費用を負担し始めた。足切断は、糖尿病患者にとって深刻な問題なので、とても嬉しい展開だ。また、彼らのチームが、糖尿病診断や、予防、糖尿病に関する一般的な知識を広げるため、村々を回る計画をしていることも注目したい。

イベントに来てくれた人々は、糖尿病センターや糖尿病協会の大切さを実感してくれたようで、多くの人々から、ボランティアで手伝いたいという申し出があった。 ここを訪れる糖尿病の人々は、カサマンス病院 糖尿病センターの看護師、ビュートリス・マンガに温かく迎えられるだろう。困ったことがあればなんでも相談に乗ってくれるし、知りたいことがあればいつでも助けてくれる。頼りになる存在だ。

(注1)ケトン体の一種で、体内で脂肪がエネルギーとして使われたときにできる物質。糖尿病でインスリン分泌が低下すると発生しやすく、ケトーシスの原因となる。

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